2019年 ベスト映画  米原 弘子

昨年映画館で鑑賞した100本の中から邦画、外国映画10本ずつ選出しました。
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(C)One Goose

【邦画】

『メランコリック』
アイデアと作り手の勢いだけでたとえ有名俳優が出演していなくともこれだけ面白い映画が作れるという『カメラを止めるな!』を彷彿させる作品で大変面白かった。バイト先の銭湯は殺人&遺体処理場だった!!なんていったい誰が思いついたのだろう。ま、確かに掃除は簡単だし死体も処理しやすいわな、なんてね。

『愛がなんだ』
自分のことさえままならないのになぜ価値観も生き方も違う他人を好きになるのか。そもそも好きになるってどういうこと? 愛って何? 今泉監督は『サッドティー』にも通じる普遍的問題を掲げる。金麦飲みながらうどんと水餃子と筑前煮を食べたくなる。食べ物が美味しそうな映画は傑作というマイ定説はまた立証された。

『よこがお』
もしヒロインが日常に潜む落とし穴に陥らなかったら、おそらく死ぬまで人に優しく人を信じることを良しとする生き方をしていただろう。心の闇はどん底にある時にむき出しになるのだ。『アンチポルノ』で一皮むけた感の筒井真理子の演技と美しさに釘付けになってしまった。

『楽園』
閉塞感溢れる集落の地域性と人間関係に名張毒ぶどう酒事件のことを思い出しやりきれない思いに。今いる場所、人と人との巡り合わせで運命が狂ってしまう絶望感を瀬々監督は直接的な表現を避けつつ見事に描いてみせる。役者では杉咲花の上手さに舌をまいた。

『殺さない彼と死なない彼女』
4コマ漫画が原作だそうだが、アイドル出演のキャンキャンした学園ものとは一線を画す、3つのストーリーが織りなすちょっと変でちょっと切なくてかなり魅力的な青春物語。若手俳優が皆同じ顔に見えてしまう中、個性的な魅力を放つ桜井日奈子と間宮祥太朗が良かった。自然光で撮ったというフィルターがかかっているような柔らかい映像も印象的。

『岬の兄妹』
自閉症の妹の売春を斡旋する障碍者の兄。清貧という言葉は現実には通用しないことをとことん突きつける。汚い、不愉快、吐き気。落ちるところまで落ちると人間は人間でなくなるのか。それでも生きる、どうしても生きる。腹立たしいことに次第に彼らが愛おしくなる。好きにはなれないが必見の問題作。

『洗骨』
ガレッジセールのゴリが本名で監督した作品。遺体が風化した4年後に親族がその骨を洗うという沖縄の儀式を初めて知る。死が家族を結びつけ次の世代へと命を繋いでいく。随所にちりばめられた笑いも品があり心地よく観ることができた。脇では大島蓉子の存在感に圧倒される。鈴木Q太郎もいい味を出していた。

『ある船頭の話』
オダギリジョーという名を差し引いても、自然を見る目、そして登場人物の過去・未来を暗示する一瞬の表情を切り取ってみせるこの監督の力は確かだと思う。時代の変化や文明の波が人間性を変えてしまう喪失感が胸に迫る。一部説明的な台詞が気になるものの心に残る監督デビュー作となった。

『宮本から君へ』
この作品の世界にはご近所迷惑という概念はないのか! とイラついた時点で私は愚直に、世間体を顧みずに、ただひたすら目の前の人の為に生きることができない類の人間なのだと思う。登場人物の爆発的生命エネルギーを具現化しているので観ている方はヘトヘトに。演じる俳優たちも大変だったろう。

『主戦場』
現在の日本が異常事態であるという報道が毎日のように流れ暗澹たる気持ちになっているところにトドメを刺すドキュメンタリーを観てしまった。カルト集団に統治される日本。重要書類が改ざんされ都合の悪い記憶は消えてしまうこの国で歴史的真実に到達することは所詮無理なのだと思った。観るべし。

【外国映画】

『ファースト・マン』
死と向き合った男がたどり着いた場所は国の威信も人間の驕りも何もない、命の存在を超えた静寂だけが横たわる「空(くう)」の世界だった。全世界が注目した第一歩は家族の涙に支えられたものだったのだと思うと胸が熱くなる。ライアン・ゴズリングの抑えた演技が光る。

『ゴールデン・リバー』
見逃さなくて良かった1本。金、権力、そして父親を含めた絶対的支配から解放される男たちの物語。4人が心を通わせ自由を味わう姿にこの時間が永遠に続くよう祈らずにはいられなかった。役者が皆素晴らしい。特にジョン・C・ライリーね、史上最高にカッコいいライリー!

『ROMA/ローマ』
世界は音で溢れ返っていることを体感。特にラストの海のシーンでは撮影の凄さはもちろん波音に自分も海に飲み込まれるのではないかと錯覚を起こしてしまった。辛いことがあっても感情を表に出さないクレオが束の間見せる微笑に心から彼女の幸せを祈ってしまった。劇場で観るべしの1本。

『女王陛下のお気に入り』
女王をめぐる寵愛・権力争奪戦を描いているというよりもその醜悪さを前面に出した至ってシンプルな展開で、だからこそ女優たちそれぞれの演技が際立ち面白く観た。中でもラスト、踏まれ続けられる兎の運命から逃れられないことを悟ったエマ・ストーンの表情ですよ。『ラ・ラ・ランド』より100倍素晴らしい。

『アメリカン・アニマルズ』
大学生による希少本強奪事件の実話映画化。ドラマと当事者たちのインタビューを合わせた構成。ついに一線を超えた時のヒリヒリ具合と比例するかのように彼女が受けた屈辱と恐怖が、若さゆえの愚かさというだけでは済まされない取り返しのつかなさとともに胸に迫る。笑えないのに面白い。

『SHADOW/影武者』
山水画のような映像美を堪能。スローモーションで描かれる傘のアクションは雨の雫が生きているように見え、これはアジア映画ならではの表現だと思った(傘アクションに入る前にいちいち入る腰捻りウォーキングは必要なのかというツッコミは置いておいて)。ラストに向かっての怒涛の展開に息を呑み終了後には思わずため息。アート好きも必見の大作。

『荒野の誓い』
キッチリと作られた端正な西部劇で素晴らしかった。人々の増悪と死が支配する時代、旅を続ける中で憎しみから悔恨の念へと揺れる感情と、相手が同じ痛みを持つ人間であるということを理解していく過程が繊細に描かれている。ラストが秀逸で傷を抱えながらも未来へと踏み出す主人公に胸アツ。

『ブラック・クランズマン』
レイシズムに対する憤りを感じつつアダム・ドライバーとジョン・D・ワシントンのバディ感が最高で胸躍る一本。二人の素晴らしい化学反応を堪能、面白かった! で終わると思いきやこれで済むと思うな、厳しい現実はまだ続いているんだ! という監督のメッセージに茫然としてしまう。感服。

『シャザム!』
ビリーと母親との最後のふれあい場面、状況や台詞は同じなのに彼の記憶と事実との落差に涙。ビリーのような境遇の子供にとって幼い頃の思い出は美化され、それにすがっていきていくしかないのだ。明るいヒーローものとはいえ中身はシビア。血は水より濃くない。子育て中の親御さんに全力で勧めたい一本。

『ある少年の告白』
父は自分の弱さを知り、母は抑圧から目覚め、子はそのままの自分でも愛されることを知る。家族が葛藤を超えそれぞれの気づきを得るまでの物語で見応えあった。それにしても自由の国アメリカで現在も多くの同性愛者矯正施設が存在する現実に愕然。救いのはずの教義が歪む恐ろしさ。

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