2025年 ベスト映画   米原弘子

昨年映画館で鑑賞した映画は124本。その中から邦画、外国語映画10本ずつ選出した。
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【邦画】
1 この夏の星を見る
コロナ禍の茨城・東京・長崎に住む学生たちの群像劇。スターキャッチコンテストという競技は初めて知ったのだが空の一点に向けて一斉に天体望遠鏡の動きがシンクロする場面のカッコよさに鳥肌が立った。同じ夜空の下、星のきらめきを求めて彼らの思いが一つになっていく姿は感動的。(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

2 遠い山なみの光
 敗戦を経て復興が進み、あらゆる価値観が変わってしまった日本。混乱と希望の中で生きる日本人の心の隠喩が悦子の記憶、と解釈した。人は何かを得るために代償を払わなければならず、それが景子の自死。人生は苦しみを伴うが光は必ず存在する。終始不穏さ漂う映像が美しい。内なる強さを体現した広瀬すず、二階堂ふみが圧巻の演技。

3 敵
 どんなに健康に留意しながら丁寧に日々を過ごそうとも、抗えない死が刻々と近づいてくる老いの恐怖を描く最高のホラー映画。主人公に絡む女3人の存在が老いの悲しみと孤独を際立たせる。「敵」とは己の内側にある無駄なあがきと私は捉えた。それにしても河合優実は引っ張りだこだなぁ。

4 見える子ちゃん
 大変面白かった。序盤はしょぼい幽霊描写に笑いしか出てこなかったが次第にジワジワと怖くなり、そのうち何かがひっかかり、その何かがラストで綺麗に回収されていく映画的面白さに唸る。ホラーとコメディのバランスも抜群で観終わった後多幸感に包まれるというオマケ付き。原菜乃華が魅力的。

5 ドールハウス
 ただならぬ展開を予想させる陰鬱なアバン、正統派オカルトものとしてじんわりと観る者の首を恐怖の真綿で締め上げる前半、そして地獄の底へと突き落とす後半、とホラー展開のお手本のような作品で大変面白かった。特に終盤のフラッシュシーンが夢に出そうなぐらいに素晴らしかった。こういうホラーが観たかったんだよ。

6 黒川の女たち
 戦時下の満州で人柱にされた女性たちの苦悩の記憶。ドキュメンタリーは知り得なかった真実を知る機会を与えてくれるがこの映画の衝撃は凄まじかった。言葉にし声を上げることで心が解放され笑顔を取り戻す女性の姿に涙が止まらない。被害者だけでなく加害者としての当時の日本の立ち位置が語られているのも良かった。次世代に託された責任は重い。

7 秒速5センチメートル
 “エモい” 観終わった後普段使わない言葉を心の中で呟いてしまった。すれ違いの男女、届かない手紙、叶わない恋、、、儚い光が包み込むような世界観に堪らない気持ちになった。心の動きを繊細に見せる松村北斗、青春真っただ中のキラキラが眩しい森七菜の存在感に瞠目。

8 平場の月
 初恋同士の男女が人生後半を迎え再会。介護、金銭、健康などの問題をお互い抱えながら年齢を重ねたからこその思いやりと距離感で寄り添い合う。ぎこちなく結ばれる二人が生々しくエロティック。人生は死ぬまで続いていく。堺雅人と井川遥の演技が味わい深い。

9 夏の砂の上
 閉塞感漂う灼熱の長崎を舞台に心が締め付けられるような人間のエゴイズムが描かれる。苦しい、が、水が砂に沁みていくように少しずつ感情が解放されていくのが良かった。物憂げな少女の役を繊細に演じるばけばけ髙石あかりの存在感たるや。。これからどんな女優になるのか楽しみ。

10 ルノワール
 ちょうど思春期にさしかかる少女の視点から描かれるひと夏の物語。大人たちの身勝手さや欺瞞、そして彼らの苦悩も敏感に感じ取る深淵な瞳から目が離せない。無邪気な好奇心にハラハラしつつ現実と幻想が入り混じった世界に引き込まれた。ヒロイン鈴木唯の恐るべき演技力。

【外国映画】
1 ガール・ウィズ・ニードル
 第一次大戦後のデンマーク、困窮に苦しむ女が妊娠出産の末に知る凄惨な真実。性行為の果て、心身ともに傷つき責任を負わされる女たち。時代を経ても変わらない不条理と不均衡を浮き彫りにする。暗鬱としたモノクロ映像と耳に残る音響。最後の救いに涙がこぼれた。

2 ワン・バトル・アフター・アナザー
 革命家としても父親としてもダメ男の娘への愛情だけは本物だった。映画的面白さがてんこ盛りで下手すると胸やけしそうになるところを音楽による場面転換が効いていてスッキリ楽しめる。先が見えない起伏激しいハイウェイでのカーチェイスは迫力たっぷり、見ごたえあった。

3 ブラックドッグ
 まるで時間が止まったかのような草が転がる砂漠近くの荒れ果てた町、寡黙で孤独な男と決して群れない黒い野犬との交流。北京オリンピックを契機に古い建物は取り壊され、町も人も犬も次世代へと景色が変わっていく。希望とノスタルジーが重なるラストがしみじみと良かった。こういう作品に出会うために映画を観続けている。
 
4 TATAMI
敵対国との試合を避けるために棄権を強いられるイラン女子柔道選手。彼女が苦しみながら勝ち進むほど国からの抑圧と脅迫が激しくなるという構図にこちらの感情も揺さぶられる。公式によると2019年に実際に起こった事件をベースにしているというから驚き。イランでは当然ながら上映不可。映画関係者の屈強な精神がこの映画に宿っている。

5 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
 ジェヒとフンスの関係性に羨望を抱く人が多いのではないだろうか。同調圧力や理不尽さにまみれた世の中でもかけがえのない相棒がいれば生きていけるのだ。女性側をエキセントリックだけでなく真面目で繊細さを持ち合わせているキャラクターとして描いているのも好感が持てる。『君の名前で僕を呼んで』をまた観たくなった。

6 シンシン/SING SING
NYの刑務所で演劇を通して更生を目指すプログラムに参加する収監者たち。演じることで彼らが自らと対峙し、他者を支え絆を育んでいく姿に涙が止まらなかった。これは演劇という瞬間芸術が持つ力でもあると思った。俳優たちのほとんどが元収監者であることも凄い。

7 鯨が消えた入り江
 もともとバタフライエフェクト系というかパラレルワールドな話が大好物な上にテレンス・ラウとフェンディ・ファンの美と演技の相乗効果に完全に心を奪われてしまった。 最後に流れるレスリーの「春夏秋冬」に涙腺決壊。二人に幸あれ。

8 満江紅/マンジャンホン
 敵か味方か?味方か敵か?二転三転、どんでん返しにつぐどんでん返しであっという間の157分。登場人物全員頭が切れるっていんうだから油断できない。なんといってもムロツヨシですよ(笑) コメディ要素も映像も劇伴も最高!チャンイーモウ健在なり。

9 シャドウズ・エッジ
 ここ最近のジャッキー映画の中で最高レベルの面白さ。若手役者たちをしっかりと盛り立てつつ、レオン・カーファイと二人、いぶし銀の凄みと重量感で死闘を魅せる。香港映画を観続けて良かったと思うひととき。オリジナル『天使の眼、野獣の街』を改めて見直したい。金城武に似ていると話題の此沙は私の目には成田凌だった。

10 年少日記
 素晴らしかった。後半から視点が「残された者」の苦悩に転換していく構成の上手さ。この物語の悲劇がより深みを増して観る者に迫る。ピアノ教師と兄が一緒にピアノを奏でたり楽しくやりとりする様子を弟が知っていたことにハッとさせられる。きっと羨ましかったに違いない。そんな彼が教師になり子供に寄り添う道を選ぶ。納得の結末。

昨年は劇場で観たインド映画は16本。年々本数が増えていくのが嬉しい。その中でベスト1は何といっても『メイヤラガン-美しい人-』を挙げたい。自分の一言が誰かの人生に大きな影響を与えているかもしれない。過去を許せば今が変わり未来に光が射す。名作です。

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