2023年 ベスト映画  米原 弘子

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(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

昨年映画館で鑑賞した85本の中から邦画、外国映画10本ずつ選出しました。

【邦画】

①窓ぎわのトットちゃん
ちょうど親世代の徹子さん、子供たちのイキイキとした動作や会話の細やかな描写に両親の姿が重なり胸がいっぱいに。年月を経て二人とも他界した今、社会情勢が当時とそれほど変わっていない、むしろ悪い方に向かっていることに戦慄。泣いた。良かった。

②リバー、流れないでよ
老舗旅館で繰り返される2分間のタイムループ。登場人物の記憶が途切れないことで起こるドタバタを毎回ワンカットで撮るというアイデアの素晴らしさ。2分という時間を視覚化したともいえる。笑いながらそれぞれの人生も垣間見える。冬の京都の神秘的風景と相まって大満足の一本。

③福田村事件
たかだか100年前の出来事なのだ。その間に人間の集団心理が変わるとは思えない。もしかすると明日私が(どちらの立場にせよ)彼らになるかもしれない。決して他人事ではなく目をそむけてはいけないと思いつつその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。役者陣が見事。

④エゴイスト
浩輔と龍太の笑顔を見ていると彼らの幸せがいつまでも続くよう願うしかなく、と同時にこの関係が終わりを迎える予感に胸が苦しくなった。思いがけない展開から血のつながりを超えた家族の構築へと物語は行き着く。無償の愛と日常の尊さを実感する。

⑤春に散る
何を選択するのが正解か誰にもわからない状況で、たとえ体がボロボロになろうとその一瞬にすべてを賭ける美しさ。ボクシング映画に人々が惹かれる理由がそこにあると思った。主演の横浜流星はなんて凄い役者なのだろう。ほとんどノーメイクで一本芯が通った女性を演じた橋本環奈は新境地を開いたのでは。

⑥ミンナのウタ
GENERATIONSのメンバーが本人役で出演。呪いのカセットテープがもたらす怪奇現象に巻き込まれる。怖くて面白くて期待以上だった。特に途中の白日夢か現実か、こちらも魔界に引き込まれそうになるあるシーンが秀逸で、恐怖と微かな好奇心を刺激して鳥肌。

⑦正欲
正しさとは?普通とは?マイノリティの嗜好や欲望・衝動を言語化視覚化するとこうなるのかと腑に落ちた。というか何かしら誰でも持っている感覚なのではないかとも。普通側に立つ者が振りかざす常識と正義を体現した稲垣吾郎の演技に舌を巻く。

➇仕掛人・藤枝梅安
行燈の薄暗い中、鍋を囲みながら「これが最後の飯かもしれん」と語り合う男二人の全身からにじみ出る悲哀と色気にクラクラ。除夜の鐘が鳴り響く大晦日、こたつで眠る彦次郎に羽織をかけ一人縁側で妹を偲ぶ梅安、、というカットだけで観た甲斐があったというもの。極上の時代劇。

⑨アンダーカレント
人の心は計り知れなくてお互いわかりあえるはずがなく、だからこそ心が触れ合う一瞬を求めて人は生きているのかもしれない。そんな思いを抱きながら観ていた。真木よう子、井浦新、リリーフランキーほか役者たちの演技が心地よい。優しくありたいと思った。

⑩最後まで行く
オリジナル韓国版は未見。岡田准一扮する刑事がのっぴきならない状況にどんどん追い込まれていく姿に息も絶え絶え、大変面白かった。途中の死体についてのミスリードも効果的。サイコパス綾野剛も凄いし磯村隼人の死体っぷりも素晴らしい。どなたか駿河太郎の心配をしてあげてほしかった(笑)

【外国語映画】

①対峙
高校銃乱射事件の加害者家族と被害者家族が密室で向き合う。同時に観客も彼らが体験した取り返しのつかない悔恨や苦悩、喪失感を共有することになる。涙が零れてしまったのはどちら側の感情に同調したのか自分でもわからない。絶望の中でも人間は赦し希望を見出せるものなのか。必見。

②FALL/フォール
手に汗握るとはこういうことなのか。女性二人の関係性が変化していく終盤にかけてホラーの旨味もあってゾクゾク。600mの鉄塔に取り残される状況は間違っても私の人生に起こらないはずだが万が一のために多少のサバイバル知識と体力は常に必要。足が地についていることの幸せを噛みしめた。

③フェイブルマンズ
観る者が100人いれば100通りの受け止め方があり、人を幸せにも不幸にもし、虚構を真実に真実を虚構に変え、思いもよらない自分の心の内に気づかされ、何よりいつかこの世から消える人間と違って形として残る映像って映画って怖い!残酷!だからこそ私は好きなのだと思いながら観ていた。傑作。

④パーフェクトドライバー
思いがけず子供を守る羽目になってしまった凄腕女の物語として『グロリア』を思い出すのは当然としてさらにド迫力のカーチェイス、韓国映画らしい痛すぎる暴力場面を絡めながら終盤にかけてテンション上がりまくり、思わず手に力が入る。パク・ソダム惚れてしまうわ。

⑤ヴァチカンのエクソシスト
大変面白かったのだが、クマさんみたいにプクプクして愛嬌があって可愛くて強くて頼もしくて無駄に色気がある人がローマからスペインまで最強悪魔から人を救うためにスクーターで爆走するのだからキュンキュンしちゃって怖いどころでなくなってしまったのが残念だった。

⑥青いカフタンの仕立て屋
青い布に金色の刺繍を施す手に重なる手。互いの視線が絡み合う場面のなんとエロティックなことか。美しいカフタンが仕上がった時、男二人女一人の中で育まれた愛が静かに昇華していく。生活音が効果的。階下から流れる音楽に命を慈しむよう三人が踊る場面が心に残る。

⑦燃えあがる女性記者たち
新聞社を立ち上げたインド被差別カーストの女性たちがスマホ片手に社会問題に切り込んでいく。終始彼女らが暴力による報復を受けるのではないかとハラハラしながら鑑賞してしまった。そして命まで狙われることはない日本のジャーナリズムの不甲斐なさ、そして私自身の甘い生き方を痛感した。

➇モリコーネ 映画が恋した音楽家
映画ファンならずとも一度は聞いたことがあるはずの音楽と貴重映像に心躍る至福の157分。愛すべき音楽家は頑固さと柔軟性を併せもったチャーミングな人柄で、彼が語る制作現場裏話など楽しくてずっと聞いていたかった。彼を敬愛する監督たちの言葉も熱い。

⑨M3GAN/ミーガン
二足歩行が突然四つん這いで疾走する姿ほど怖いものはない。ホラーだけではなくドラマパートもしっかり面白くて100分の尺ながら大満足。ミーガンダンスも楽しい。後半は『エイリアン2』を思い出したが、叔母の行動が母性からではないところが良かった。子供も強くて賢いのが好印象。

⑩ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り
登場人物たちがみんな愛すべきキャラでそれぞれが強みを生かし弱点を補い合いながら結束力を高める、、というだけで胸が熱くなってしまった。主人公とその相棒がジェンダーを超えた関係というのも好感が持てる。ミシェル・ロドリゲスがカッコイイ。ヒュー・グラントが楽しそうに演じているのよ、憎たらしい顔をしながら。

以上ベスト10のほかに
昨年と同様私にはどうしても順位がつけられなかった作品として
『ブラフマーストラ』『PATHAAN/パターン』『ランガスタラム』『K.G.F CHAPTER1&2』『囚われし者ボーラー』『火花Theri』のインド映画6本を挙げておきます。

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