2021年 ベスト映画 米原 弘子

昨年映画館で鑑賞した85本の中から邦画、外国映画10本ずつ選出しました。

【邦画】
①街の上で
みんなちょっと面倒くさくてちょっと意地悪でちょっと優しくて最高に愛おしい。そんな登場人物たちに出会えた幸せに浸る。焦ると自転車に上手く乗れない雪と、緊張すると本のページを上手く繰れない青はやはりお似合い。きっと今日も下北でフワフワ生きている二人にまた会いたい。
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(C)『街の上で』フィルムパートナーズ

②由宇子の天秤
人物の表情が推進力となって物語が展開、息を呑んだまま2時間半が終わる。フィクションでありながら主人公に突き付けられた正義のあり方がそのまま我々の問題となり生々しく感情を揺さぶってくる。ドキュメンタリーの真実性についても考えさせられた。

③ドライブ・マイ・カー
昔、精神的に限界にきていて自分の感情をどう扱ってよいかわからない時期に友人の前で急に涙が溢れ、やっと自分が傷ついたことを言葉にして認めることが出来て心が解放され楽になったことを思い出した。人生は芝居みたいなものだということも改めて感じた。

④まともじゃないのは君も一緒
普通じゃない二人が普通を追い求めた結果最終的に気づいたのがそのままの自分の素晴らしさ。嫌われ者の彩夏ちゃんが実はしっかりした女性だったり、人望ありそうな宮本が最低ヤローだったり、人に関心なさそうな大野が他者の本質を正当に見極めることができる男だったり、と世間の噂や評価はまったくアテにならないという話でもあった。

⑤あのこは貴族
格差がますます顕著化している今、持てる者の生きづらさやしんどさを描いた作品は珍しいのではないか。決して交わることがなかった二人の女性が一人の男性を間にして出会い、反発しあうでも共闘するでもなくただつかの間を共にすることで自分たちの生き方を見つめる、そういう描写が現代的だなと思った。

⑥BLUE/ブルー
夢を叶えられるのはほんの一握り。才能がなく諦めたりさまざまな事情で他の道に進む大半の人たちに夢自体を切り捨てる必要はないとそっと寄り添ってくれる群像劇。負け続けボクサーを演じた松山ケンイチの笑顔と、やりきれなさを滲ませる背中が最高だった。柄本時生の存在感も大きい。

⑦すばらしき世界
中盤から以降祈るような気持ちで主人公を見つめ気づくといつのまにか泣いていた。生活習慣は徹底的に刑務所で矯正され体に染み込むのに根本的な性格だけは変えることはできないということか。彼がシャバの広い空と引き換えにしたものは何だったのか、ずっと考えている。

➇ 護られなかった者たちへ
震災を境に格差社会の拡大と形骸化しつつある生活保護のありかた、欺瞞的自助共助などを直球で描いた作品。綺麗ごとや正論を言ってみても当事者の苦しみや憤りを理解できるはずがなく、やり場のない感情がもたらす展開に暫し言葉を失った。

⑨哀愁しんでれら
愚直な性格ゆえ真っすぐに突き進むことしかできないヒロイン像は土屋太鳳のイメージにぴったりで彼女の演技としなやかな身体の動きを見るだけで十分に元をとれる作品。優しさは狂気、正義は刃、幸と不幸は紙一重的な地獄観も良かった。

⑩先生、私の隣に座っていただけませんか?
妻の手のひらで踊らされ最後にとどめを刺される不倫夫の悲喜劇。口角はいつも上がっているのに冷ややかな目をして決して心の内を見せない妻に黒木華、器の小ささと色気のバランスが絶妙な夫に柄本佑。火花を散らす二人の演技は必見。

【外国語映画】
①イン・ザ・ハイツ
ミュージカル最高!あっという間の2時間半。群舞シーンを観ると自然に涙が零れる体質だが、この作品でも胸いっぱいにあふれる高揚感でいつのまにか泣いていた。米国マイノリティ社会の決して甘くない日常を織り交ぜつつ猛暑も吹き飛ばす人々のエネルギーは力をもらえる。

②ノマドランド
喪失体験を経てノマドとして生きることを選択した覚悟、強さ、厳しさを表情と佇まいで表現したフランシス・マクドーマンドの美しさときたら。ともすればエモーショナルに寄ってしまうギリギリなところを彼女の演技が押しとどめる。私にはまだ覚悟や強さは無いが少し背中を押されたような気がした。
③ Mr.ノーバディ
退屈な日常にうんざりしていたこのオッサンは実は自分をキレさせてくれる相手を待っていたのかも。いったんスイッチが入ると水を得た魚のようにイキイキと楽しそうなのが実に良い。適度に殴られほどほどに痛がって血まみれになるのも人間臭くて大変良かった。音楽の使い方もグッド。
④プロミシング・ヤング・ウーマン
二人の女性の関係性もあの時何が起きたのかもはっきりと描かれていない。それでもニーナの苦しみ、残された者のくやしさや心の底から湧き上がる怒りも女性なら想像できると思う。罪なき傍観者の罪深さなど、単なる復讐譚ではない描き方に現代的なものを感じた。

⑤グレート・インディアン・キッチン
終盤ヒロインの行動に溜飲を下げた気分になれないのは決して問題解決にはなってなくて、因習や人間関係がある限り世界中どこでもあり得る普遍的な問題だからなのだろう。もし排水管が壊れなかったら、もし早々に修理されていたら、彼女もあそこまでの行動はしなかったと思う。あの排水はあふれ出す彼女の憤りと怒り。

⑥ミッション・マンガル
女性科学者たちが日常生活から思いつく節約アイディアや発想の転換など科学的根拠云々というより最終的にはこうした人間力の積み重ねが成功に結びつくのだろうと納得させられるのはやはり凄い。「夢は寝ている間に見るものではなく、寝させないためにある」は名言。

⑦MINAMATA-ミナマタ
邦画として日本で作られるべきだった傑作。有名な「入浴する智子と母」の撮影風景シーンと実物の作品が重なった時、1枚の写真が持つパワーに打ちのめされ涙が零れた。水俣問題は過去のものではなく、今も続いていて決して他人ごとではないことを改めて実感。

➇オールド
時間とは経験と記憶を積み重ねるためのツールなのかもしれない。人生で一番感受性豊かな青春時代を失いいきなり老後の入口に立たされた彼らのこれからのことを考えると胸が締め付けられる。時間を浪費するだけで何もせずただ息をしているだけの人々への警告と感じて震撼。

⑨TOVE/トーベ
芸術をめぐって確執があった父親から離れ、爆撃でボロボロの部屋を自分の手だけで改装していくヒロインの姿に胸が熱くなった。アトス・ヴィルタネンとの男女を超えたお互いの生き方を尊重する関係がとても素敵だった。ままならぬ人生を紫煙をくゆらせ酒を飲み踊って晴らそう。

⑩最後の決闘裁判
女を所有物化する男二人の薄っぺらな自尊心と見栄と嘘に対し、沈黙することなく毅然と立ち上がった女性の生きざまを描いた作品。役者たちの凄み溢れる演技を堪能。ただひっかかるのはレイプシーンを繰り返し入れる必要があったかということ。こういう問題は真実であるか否かというより彼女を信じることが一番大切なのではないか。

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