2021年ベストテン 菅沼正子

2019年から始まったコロナ禍騒動、それも収まらないうちにオミクロン株などが出てきて、収まるどころか6波を懸念しなければならない状況で迎えた2022年。昨年見た作品を振り返ってみると、やはり例年より少ないことに気づく。それもコロナ禍のせい?それでも恒例のベストテン選出は、いつものことだが、楽しくもあり、苦しく悩ましくもあり、です。劇場公開された作品のみから選出してます。

外国映画の部
1,グンダGUNDA
 これはすごい!躍動感あふれる生命の鼓動。ある農場で暮らす豚、鶏、牛の日常をとらえたネイチャー・ドキュメンタリーだ。研ぎ澄まされたモノクロームの映像と斬新なカメラワークだけで、解説もナレーションもない。人工の音楽も一切ない。聞こえてくるのは、動物と自然の音だけ。けれどメッセージのインパクトは大きい。ラストシーンは映画史に残るほどのすばらしさ。この慟哭は生涯忘れないだろう。

2,アイダよ、何処へ?
 いまだに続くボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争。中でも戦後ヨーロッパ最悪の大量虐殺事件<スレブレニツァの虐殺>の全貌と真実が明かされる。人間の残虐さが怖い。国連保護軍と市民の通訳として働くのがアイダ。どんな苦境にあろうとも未来を信じて決断するアイダの勇気は、希望の明かりである。

3,ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男
 実話に基づくリーガルドラマ。巨大企業による環境汚染問題を、たった1人で闘う弁護士の不屈の信念に感動。

4,素晴らしき、きのこの世界
 キノコ・菌類の秘めたる力に迫った驚異のドキュメンタリー。きのこ効用の知識はあるつもりだが、危険な場合もあるから注意が必要だが、キノコ・菌類の可能性を教えてくれる1本。

5,リル・バック ストリートから世界へ
 闘争の街メンフィス育ちのリル・バックが、世界的なダンサーなるまでのドキュメンタリー。彼の信念は心だけはだれよりもタフで、常に前を向いて行動すること。感情の高まりをそれぞれのダンススタイルで表現、その個性とダンスに魅了される。

6,83歳のやさしいスパイ
 南米チリ映画。実際の新聞広告から生まれたドキュメンタリー。83歳のおじいちゃんが雇われたミッションは、自身も老人ホームに入居して実態調査すること。家族と疎遠になった高齢者の孤独ほど精神的につらいものはない、というメッセージが心に響く。

7,ノマドランド
 苦境の時代を希望で照らすロードムービー。リーマンショックで仕事と住居を失った60代のヒロインが、あえて車上生活者、つまり現代のノマド(遊牧民)になる。それはある意味自分探しの旅。人生の時間を大切にとの強烈なメッセージである。

8,少年の君
 統一試験間近な進学校で、いじめのターゲットにされている少女。幼いころ親に捨てられ、橋の下暮らしで学校には行ったことのない少年。ひょんな事で出会ったこの2人の、魂と魂の交錯が胸を打つ。

9,17歳の瞳に映る世界
 シリアスなテーマを真摯に描く。地方に住む17歳の少女が妊娠。熟慮の末、堕胎を決意。親の承諾書がいらないニューヨークへ。本人の意思に寄り添い紡ぎ出すカウンセラーの言葉が胸に迫る。「青春を無駄にしないで」のメッセージを心に刻んでほしい。

10,天国にちがいない
 特異な映画。まるでサイレント映画みたい。主人公は<ナザレ>と<パレスチナ人>の2言しゃべるだけ。セリフがあるのは、通行人やカフェの人々の会話のみ。あとは、主人公の視界に映る風景・光景だけで、「あなたは何を感じますか」と問いかけているのだろう。主人公は故郷ナザレから、パリ、ニューヨーク市へと旅するが、どこでも戦車、銃、バズーカ砲などを目にし、「どこに行っても我が故郷と変わりはない、この世界はパレスチナの縮図なのか」と政治的メッセージを発しているのだろうと私は思う。

drive.jpg
(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

日本映画の部
1,ドライブ・マイ・カー
 村上春樹の短編小説の映画化。監督は世界的に注目されている濱口竜介。彼の無尽蔵の才能に感服。本作のシンボル的人物像を演じる若い女・みさきが未来を信じて自分の人生を生きていく姿勢が印象的。生きることの苦しさと美しさ、人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さなどが胸にしみる。

2,あのこは貴族
 育ちが違う2人の女性の青春ストーリー。華子(門脇)は東京生まれの上流階級育ち。時岡美紀(水原希子)は富山県生まれで、実力で名門大学に合格し上京、自力で東京を生き抜こうと必死。共通の友人、幸一郎(高良健吾)を挟んでドラマが展開するが…。人生で1番大切なものは?それが分かったとき道は必ず開ける。

3,護られなかった者たちへ
 衝撃と感動のヒューマンミステリー。3/11の震災から10年目の仙台が舞台。全身を縛られたまま”餓死”させられるという不可解な連続殺人事件が発生。捜査線上に浮かび上がった男、追い詰める刑事。やがて事件の裏に隠された切なくも衝撃の真実。容疑者・佐藤健VS阿部寛。罪を犯してまで護りたかったものとは?行政の無慈悲を糾弾している。

4,梅切らぬバカ
 都会の片隅で、寄り添って暮らしている母と自閉症の息子。息子が50回目の誕生日を迎えたとき母親はふと気づく。このままでは…。この親子が社会の中で生きていく様を温かく誠実に描き胸に迫る

5,椿の庭
<This is Japan>と言いたい堂々とした日本PR映画。豊かな四季のある日本、四季折々の花が咲く美しい庭園。日本を代表する富司純子の着物姿のあでやかさ、上品な所作。日本に生まれて良かった。

この記事へのコメント