2020年 ベスト映画  米原 弘子

昨年映画館で鑑賞した96本の中から邦画、外国映画10本ずつ選出しました。

【邦画】

① スパイの妻
『スパイの妻』舞台劇を観ているような圧倒的臨場感。あの時代の同じ空間に放り込まれたような錯覚に陥った。高橋一生、蒼井優の相性の良さは『ロマンスドール』で立証済みだが、本作のクラシカルミステリーでも息がぴったり。出番はそれほど多くないが駒子役の恒松祐里が印象的でこれから活躍しそうな若手女優として期待。

② アルプススタンドのはしの方
グランド側は一切見せないのに気づけば見えないヤノくんを、ソノダくんを応援し、いつのまにか私が励まされ泣いていた。これは「しょうがない」に慣れてしまった私たちに向けた応援歌。野球を見ている人たちの会話劇だけでこんなに面白い作品が生まれるという奇跡。

③ おらおらでひとりいぐも
夫に先立たれ一人暮らしとなった75歳の桃子さん。過去を振り返れば泣いたことも後悔することも沢山ある、一大決心して夢に向かって飛び出したことだって。それをすべて飲み込んで寂しさとも楽しく付き合って今を自由に生きる姿に年を重ねるのが楽しみになった。

④ ロマンスドール
夫婦ものというよりは一人の男の心の軌跡を辿ったお仕事映画で面白く観た。空気入れるだけのダッチワイフからよりリアルなラブドールへ。職人達が技術を高めしのぎを削る。大人の玩具作るにもいろいろ規制があるのね。きたろうと高橋一生の師弟関係が良かった。ピエール瀧も適役好演、こんな上司がほしい。

⑤ 朝が来る
役者が出てなければドキュメンタリーだと思ってしまうような演技とカメラワーク。不妊の結果養子を迎えるタワマン住まいの夫婦と、思いもよらない妊娠に心身共に傷つく少女。両者の命を巡る苦悩とその対比がシビアに鮮やかに炙り出される。中盤以降一人で物語を引っ張る蒔田彩珠が素晴らしい。

⑥ 罪の声
昭和の未解決事件をモチーフにどんな大義名分を掲げようと、どんなに同情すべき点があろうと犯罪は決して許されることではないということを一貫して描いている。たとえ声は聞こえずとも事件の裏には人生を狂わされてしまった人が必ずいるということも。傑作。

⑦ のぼる小寺さん
いわゆるスポ根ものとは一線を画す作品で、ただ登りたいから登る小寺さんのピュアなエネルギーが徐々に周りを変えていく様子に気が付いたら私も彼女を好きになって幸せの涙が溢れていた。カサカサな中高年の心にも潤いを与えてくれる一本。ラストカットが最高にキュン。

➇泣く子はいねぇが
お酒で失敗、父親にも大人にもなれず故郷から逃げた男の後悔。ナマハゲは強くて頼もしい父性の象徴か?それが消えゆく行事になっているのがなんとも皮肉。仮面を被らなければ幼い娘とも向き合うことができない弱い男なのに最後はいじらしくなるのは仲野太賀マジック

⑨影裏
ブリーフ姿の綾野剛の下半身を執拗に捉えるカメラ、掴みどころのない男松田龍平の出現と、何か大きな事件が起こるわけではないのに序盤からジワジワと締め付けるような展開に息が詰まる。貴方はその人の何を知っていたのか。謎はそのままに、怪しく魅力的な作品だった。中村倫也にはビックリ!

⑩mellow メロウ
観終わった後人に優しくしようと思った、そして泣いた。今泉監督の目線はいつも温かい。物言わぬ花が伝える愛と言葉にしないと伝わらない人の思い。なんというもどかしさ。言葉が人に寄り添い心を温めるの。ヘタすると嘘臭くなるモテ男は田中圭にピッタリのキャラクター。

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【外国語映画】

① スウィング・キッズ
最高、最高、最高!! どのダンスシーンも素晴らしいのだが、中でも苦しい現実から飛び出し自由に向かって羽ばたくかのようにD.ボウイの「モダン・ラブ」に乗ってギスが捕虜収容所内を、ヤンパンネが村の中を踊り疾走するシーンに胸が熱くなってしまった。

② ストーリー・オブ・マイライフ
冒頭、自分の小説が採用され思わず街を走り抜けるジョー。『フランシス・ハ』でダンサーを夢見るフランシスがNYの街を駆けるシーンを思い出した。老境を迎えた男が人生を映画という芸術で再生したのが『ペイン・アンド・グローリー』ならば、若い女性がずっと抱えてきた抑えがたい感情を一冊の本に昇華させたのが本作。自分の感性を文章、音楽、絵で形にできる芸術的才能ある人が羨ましい。

③ 透明人間
家庭内DVという他者には見えない、わかってもらえない恐怖と卑劣さが透明人間となり主人公を追い詰める。なんといっても孤独な戦いを強いられるエリザベス・モスがメイクしドレスアップすると途端に只者ではない!に変わるのが凄い。ラストカットの勝利の微笑は忘れられない。

④ルース・エドガー
何か事件が起きるわけではないのに全編に漂う不穏な空気に息が詰まる。マイノリティに関する問題だけでなく普遍的な要素が含まれていることを痛感。ありのままの自分で、と言うが易しで国や環境が大きくアイデンティティを左右するのは明白な事実。必見の問題作。

⑤はちどり
家に居場所はない、人間関係も思い通りにいかない、危うく繊細で身勝手な14歳の日常。こんなにリアルに思春期を描いた作品は今までなかったのでは。多くを失い傷ついた後に自分の求めていたものは外ではなくすぐ近くにあったと気づくのだ。最後ヨンジ先生の言葉に思わず涙が。

⑥ペイン・アンド・グローリー
ここ最近の最高なラストシーンで思わず至福の溜息をついてしまった。老境に入りもれなく訪れる心身の痛みもこれまで生きてきた集積。苦しくとも受け入れ、慈しみ、映画という芸術で再生させる鮮やかさ。A.バンデラスの色気と枯れ具合が絶妙。部屋のアートや調度品は必見。

⑦ミッドサマー
音の使い方、映像、カメラワークなど、いちいち私の心の琴線に触れてワー凄いなと感心しているうちに、スーフィーのごとく神と一体化した旋回ダンスを見ているうちにいつのまにかトリップ状態に。怖い、近づいちゃいけない、でも惹かれる。どうしよう、と言いながら3回おかわりしてしまった。

➇ジョジョラビット
ナチ信奉の男の子が愛する人との別れ、戦争の残酷さを経験しながら子供も世界観を見つめ直す。どんなに世界が狂っていても誰かのために靴ひもを結んであげることができれば、心のままにダンスができれば、人生は素晴らしいのだ。ブラックさの中の笑いも秀逸。傑作。

⑨幸せへのまわり道
Hello!Neighbor!とミスターロジャースがこちらに向ける笑顔は、幼い頃見た子供番組のように私だけに語り掛けられているような不思議な力を持っていた。トムハンクスが演じるこその説得力。怒りをコントロールすること、どの感情を選ぶかは自分自身の責任。あの1分間の沈黙はたまらなかった。

⑩マルモイ ことば集め
アイデンティティと深く繋がる母国語の使用を禁止され名前も日本式に変えられてしまう悲劇。日本人はしっかりと向き合う必要があると思った。カッコつけで口ばっかりだけど誰よりも子供思いで情に厚いユ・ヘジン演じる主人公が勉強して街中に溢れる文字を読めるようになった時の喜びに満ちた笑顔が忘れられない。


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