2020年ベストテン 菅沼正子

 100年に一度とも言える、コロナに振り回された最悪の2020年。試写室も映画館にも行けなく、そのおかげで、と言ったらおかしいかもしれないが、オンライン試写を初めて経験し、Netflixもよく見るようになった。そう言えば今年のアカデミー賞はどうなるのだろう。劇場公開なしでいきなりNetflixに出てくる作品もある。コロナとNetflix,アカデミー賞協会はどのような判断をするのだろうか。ちなみに私の2020年ベストテンはNetflix作品を除いて例年通り、商業作品として劇場公開された作品だけである。
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外国映画の部
1 パラサイト 半地下の家族 
 いまさらコメントの必要がないほど、映画界に衝撃を起こした傑作。
2 ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像
 フィンランド映画。絵画に魅せられ生涯を捧げた男の人生模様にジーン。最近はネット通販に押されて個人経営の小さな美術店は成り立たない。もう引退の時期かと考えている老美術商が、オークションの下見で1枚の肖像画に目を奪われる。<男の肖像、作者不明>となっている。長年の経験で誰の作品か彼には分かる。人生最後の大勝負に打って出る老美術商。画家の命ともいえる署名がないのはなぜか、その謎解きは宗教の知識で。
3 サンダーロード
 主人公は身辺八方塞がりになっている警察官ジム。そんな時に慈善の人だった母親を亡くした喪失感は、悲しくて、悲しくて、悲しくて。踊っても踊っても切ない。親のありがたさはその歳にならないと分からないと言うが、まさにその通り。教会での告別式で、母が好きなB・スプリングスティーンの<涙のサンダーロード>(邦題の由縁)を無音のなか涙ながらに踊り出す。それがジムなりの別れ方だったが、結局母親よりジムの醜態のほうが目立って……。見逃したくない1本。
4 ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方
 大自然と共存できる究極の農場を作ろうと、夢に向かって奮闘する夫婦の8年を追ったドキュメンタリー。雑草と言う名の植物はない。だが一般的には草取りをしてそこに育てている作物を立派に育て上げる。だがこの夫妻は生態系を観察して、生命に満ちたサイクルがあることに気づく。草を食べる、オシッコする、ウンチをする、コヨーテが鴨を襲う、鴨はカタツムリ大好き、フクロウがハリネズミを食う。こうして豊穣な果樹園・農園が活性化する。この映画のような、人体にやさしい食材を食べたいと実感する。
5 ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男ピエール・カルダン
 昨年、暮れも押し迫った12月29日、ピエール・カルダンの訃報が世界中を駆け巡った。98歳であった。映画は、モードを民主化した世界的なデザイナーのドラマチックな97年に密着取材したドキュメンタリー風のもの。ファッションの革命児といわれ、オートクチュールから脱却、プレタポルテをデパートで気軽に買えるようにして大衆に広めた。その頃ノータイの彼を門前払いした「マキシム」を20年後に買収。店内には自身が60年かけて収集した1900年代アートの数々が展示されている。MCの「好きな鳥は?」の問いの答えは「蝶々」。この自由な発想がカルダンの想像力の原点であることが分かる。
6 ぶあいそうな手紙
 ブラジル映画。ラテンアメリカらしいユーモアと人情が温かい。主人公エルネストは78歳の独居老人。息子は同居を提案するが、いまさら知らない地に行くより、住み慣れたこのマンションがいい。最近は視力の低下で不自由なこともあるが、隣近所声をかけ合い支え合って皆仲良しで楽しい。ある日届いた1通の手紙は、旧友の妻ルシアから夫の訃報の知らせ。近所の若い娘ビアに”拝啓ルシア様”で返信の代筆を頼むと「それは無愛想よ」とビア。ビアの提案どおり”親愛なるルシア様”で始まる返信が功をなしルシアとの文通が始まる。78歳だって人生も愛も可能、楽しく生きよう!万歳と叫びたい。
7 娘は戦場で生まれた
 いまだ終わりを見ない根深い中東情勢。子供の頃から戦車や銃弾の音が当たり前の光景であった中で育ち,成長した彼らは何を考えるだろう。この映画はシリアの内線を追ったドキュメンタリーで、マイケル・ムーア監督は<史上最もパワフルで重要なドキュメンタリーの1つ>とコメントを寄せている。ジャーナリストのワアドと医師のハムザ夫妻。内戦は激しさを増すばかりのなか女児が誕生。夫妻は、自由と平和への願いを込めて、アラビア語で”空”を意味する”サマ”と名付け、その証を残すため母ワアドはカメラを回し続ける。サマちゃん、もう大きくなったでしょうね。
8 キーパー ある兵士の奇跡
 実話から生まれた感動の人間ドラマ。イギリスの名門サッカーサッカークラブ「マンチェスター・シティFC」のゴールキーパー、バート・トラウトマン(1923年10月22日ー2013年7月19日・89歳没)の波瀾万丈な人生を描く。ドイツ人の彼は、世界で鉄十字勲章と大英帝国勲章を持つ唯一の人である。FC入団会見は誹謗中傷ばかりで大混乱だったが、「懸命にプレーすることで恩返ししたい」と。その言葉通りゴールを守り抜き、FCは悲願の国内カップ戦優勝を果たす。サッカー選手の人生を描きつつも、テーマは贖罪。罪、許し、和解である。
9 君の誕生日
 韓国映画。エンドマークの後も涙が止まらない。2014年4月16日、修学旅行中の韓国の高校生ら300人以上が犠牲になったセウォル号沈没事故。世界中に報道されたニュースだが、製作陣はその後の遺族たちを取材、息子の誕生日を軸に遺族たちの喪失感を描く感動作。成人にも達しない我が子を亡くした母親の心境は想像にあまりある。母親役をチョン・ドヨン、父親役がソル・ギョング。ソル・ギョングの男盛りの香りにゾッコンです。
10 ペイン・アンド・グローリー
 スペイン映画。「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」「ボルベール(帰郷)」などで知られるスペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督。70歳という円熟期を迎えたのを機に、自伝的要素を盛り込むことで自らに命を注ぎ込んでいるようだ。人生の最終章まで楽しもうというメッセージが伝わってくる。感動の人間賛歌である。独自の感性による情熱的な赤や原色を使った映像美も健在。心身共に疲れきり、引退同然の生活をしていた映画監督、そんなある日、32年前に撮った作品の上映依頼が届く。その作品以来絶縁していた主役俳優との再会で監督の人生は大きく動き出す。
次点 スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話
 タイトルどおりのストーリー。実話を基にしている。パリで自閉症児をケアする施設を経営するブリュノと、ドロップアウトした若者たちを支える団体を運営するマリク。社会からはじかれた子供たちのために日々奔走する2人だが、施設は無許可のうえ赤字経営。当局は無許可を問題にして潰しにやってくるが、2人は「支援もしない政府が問題だ」と食い下がっていく。さすが!「最強のふたり」の監督。心と信念で働く2人はどんな障害者であろうと「子供たちは贈りもの」と、その献身ぶりに頭が下がる。

日本映画の部
外国映画ほど見ていないから、ベスト5でごめんなさい。
1 弥生、三月 ー君を愛した30年ー
 おしゃれなタイトルだが、なかなか辛辣なラブストーリー。昭和61年3月1日、高校生の弥生と太郎。弥生は弱き者の味方で強い信念の持ち主。太郎は通称サンタと呼ばれる明るいキャラで、サッカー選手を目指す高校中の人気者。お互いに引かれ合いながらも卒業後は別々の方向へ進み,それぞれ家庭を持ち、それぞれ苦労の絶えない茨の道ばかり。月日は昭和から平成、令和と3つの時代をまたいでも、まだ、あの気持ちは変わらない……。
脚本・監督、遊川和彦のアイディアの勝利。
2 おかあさんの被爆ピアノ
 1045年、8月6日広島、9日長崎、8月15日終戦。2020年はあれから75年。決して忘れてはならない戦争の悲惨さ。壊滅的な状況の中で奇跡的に焼け残ったピアノがあった。それを修理して全国で平和コンサートを続ける実在の調律師・矢川光則氏をモデルにしたドキュメント的映画。現在も矢川さんは8月6日には広島の平和記念資料館広場でコンサートを続けているという。矢川さんの<被爆ピアノ平和コンサート>の輪は日本のみならず海外にも広がっているという。被爆ピアノの音色の美しさとともに戦争の愚かさ、むなしさを知ってほしい。
3 ジャズ喫茶ベイシー  ーSwiftyの譚詩ーBallad
 昭和45年、岩手県一関市に開業した「ジャズ喫茶ベイシー」。そこに集う著名人が語るジャズの魅力。庶民が自由を求める心の叫びとして歌ったのがジャズ。小澤征爾は「ジャズの面白さは自由さだ」と証言。ベイシーは生演奏ではなくレコードで聴かせる”レコードの図書館”でもある。ベイシーの”かっこいい音”が聴きたくて、ジャズ、オーディオファンが訪れる。店名の由来は、マスターの菅原正二さんが、ジャズピアニストのカウント・ベイシーが大好きだからというのだが、「僕の名前が店名でうれしい」と言ってくれ、ライセンス料を要求されなくてホッとしたという。
4 糸
 ウエディングソングの定番といわれる中島みゆきの名曲『糸』に着想を得たラブストーリー。平成元年生まれの漣と葵の出会いと別れ、そしてまた運命の糸にたぐり寄せられるような巡り会い。平成時代を生きるそれぞれの体験から、社会情勢や出来事から分かる平成という時代。平成史としても役立つ貴重な1作。
5 嘘八百 京町ロワイヤル
 本当の詐欺師はだれだ。古田織部の幻の茶器をめぐって炸裂するだまし合い合戦が痛快。私の大好きな2大スター、中井貴一が古美術商、佐々木蔵之介が陶芸家、この2人を翻弄するマドンナに広末涼子が加わり、前作に負けず劣らずの艶やかさ。

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