【国立映画アーカイブ】上映企画「日本の女性映画人(1)――無声映画期から1960年代まで」

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「日本の女性映画人(1)――無声映画期から1960年代まで」
日本における女性映画人の歩みを歴史的に振り返る


会期:2023年2月7日(火)-3月26日(日)(休映日:月曜日および3月18日(土))
会場:国立映画アーカイブ 小ホール[地下1階]
主催:国立映画アーカイブ
協力:協同組合 日本映画・テレビスクリプター協会
HP:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/women202212/
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

チケット
1月31日(火)以降、毎週火曜日10:00amより、翌週(火~日)上映回の電子チケットを当館HPより公式チケットサイトにて各回の開映15分前までオンライン販売。
チケットの窓口販売など購入方法の詳細はHPをご確認ください。
〈料金〉一般:520円/高校・大学生・65歳以上:310円/小・中学生:100円/障害者(付添者は原則1名まで)・キャンパスメンバーズ・未就学児・優待:無料

◆国立映画アーカイブよりのご案内◆
上映企画「日本の女性映画人」では、日本における女性映画人の歩みを歴史的に振り返り、監督・製作・脚本・美術・衣裳デザイン・編集・結髪・スクリプターなど様々な分野で女性が活躍した作品を取り上げます。従来の日本の製作現場では男性が圧倒的多数を占めており、スタッフとして貢献した女性たちの存在の多くはこれまで見過ごされてきました。
 本企画は、Part 1として、無声映画期から1960年代以前にキャリアを開始した女性映画人80名以上が参加した作品を対象に、劇映画からドキュメンタリーまで、計81作品(44プログラム)を上映する大規模な特集上映となります。近年再評価が進んでいる、女性監督第1号の坂根田鶴子、女優から監督に進んだ田中絹代や望月優子、脚本の水木洋子や田中澄江、編集の杉原よ志、衣裳デザインの森英恵のみならず、多様な領域で手腕を発揮した女性映画人たちにスポットライトを当てます。
 また、戦前の日本映画の黄金期に大手映画会社で健筆をふるった鈴木紀子(1909-1985)を中心として、戦前の女性脚本家の小特集も行います。
 脈々と築きあげられてきた女性映画人たちの歴史を掘り起こし、その仕事を見直すことによって日本映画への新たな視座が切り拓かれることを願っております。


☆見どころ☆
▼無声映画期から戦後にかけての女性脚本家たちの活躍
 戦後には文芸映画を中心に女性脚本家の活躍が目立ちましたが、無声映画期には幅広いジャンルで女性たちが執筆しており、剣戟時代劇を多作した林義子や社喜久江、松竹蒲田で母ものや少女ものに携わった水島あやめを取り上げます。また、無声映画期から戦中にかけて活躍した鈴木紀子は、『チョコレートと兵隊』(1938、佐藤武)や『花つみ日記』(1939、石田民三)などの秀作を手がけました。そして、戦後にデビューした水木洋子、田中澄江、橋田壽賀子、楠田芳子、和田夏十らが個性豊かな作品群を送り出しました。

▼戦前から専門職として確立されていた結髪やスクリプターに注目
 無声映画期には、撮影所に女優が誕生するよりも先に結髪部の女性スタッフが定着していました。 増淵いよのと伊奈もとは、1917年から日活向島で女形の結髪を手がけて以来、戦後にかけて活躍しました。 また、製作現場での記録を担当するスクリプターは女性採用がある限られた職種でしたが、戦前から女性が主力の専門職として確立され、40年以上の長いキャリアを歩んだケースや、スクリプターを出発点に監督やプロデューサーなどへ進んだケースもありました。 日本の女性スクリプター第1号と推定される坂井羊子はじめ、戦前からの草分けである三森逸子、鈴木伸、藤本文枝、城田孝子から、戦後にデビューした中尾壽美子、秋山みよ、宮本衣子、野上照代、白鳥あかね、梶山弘子、高岩禮子まで、日本映画黄金期の多大な貢献に光を当てます。

▼文化・記録・教育映画で手腕を発揮した女性監督たち
 戦前より先駆的活動をした脚本家の厚木たか以降、文化・記録・教育映画の発展を背景として1950年代から女性監督たちが実績を上げていました。科学映画で定評のあった中村麟子、岩波映画でデビューして活躍した時枝俊江と羽田澄子、教育映画の西本祥子、PR映画なども含め幅広く手がけたかんけまり、人形アニメーションの神保まつえ、さらに1960年代に監督デビューした藤原智子と渋谷昶子を取り上げます。

★上映作品の詳細は下記でご確認ください
企画HP:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/women202212/#section1-2


2022年 ベスト映画 米原 弘子

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(C)2022「PLAN75」製作委員会 / Urban Factory / Fusee

昨年映画館で鑑賞した75本の中から邦画、外国映画10本ずつ選出しました。

【邦画】
①PLAN75
真面目に働き命を全うすることがまるで罪のようになってしまった日本。決して絵空事ではなくPLAN75を選んだ方が幸せなのではないかと思わせる国にもうすでになっているのではないかと戦慄。亡くなった人たちの持ち物を担当労働者が分別するシーンはホロコーストを想起。全日本人必見の問題作。
②ちょっと思い出しただけ
男女が付き合った数年間のある一日だけを取り出して時間を巻き戻していく。笑いあった日も喧嘩した日も宝物のように思えるのは今この時が幸せだから。二度と戻れない過去があるから今が尊い。『私たちのハァハァ』に続く松居監督の傑作。伊藤沙莉のハスキーボイスが心地よく心に響く。
③ケイコ 目を澄ませて
ろう者のケイコには聞こえない「音」に神経を集中させているといつのまにか彼女の人生や思いが心に流れ込んでくるような不思議な感覚に陥る。気づけば彼女の表情一つ一つを逃さぬよう見つめている。他者を思う時「澄ませて」いることが大切ということだろうか。良作。
④戦慄せしめよ
豊田利晃監督が撮った太鼓芸能集団「鼓童」の姿。89分言葉は一切なく、あるのは太鼓の音色のみ。陶酔感がひたひたと押し寄せてきてハッと気づいた時には終わっていた。こんな映画の楽しみ方があるのだと感動。佐渡に深く根付く歴史の重みまで感じた。筋肉美も堪能できる。
⑤さかなのこ
儚さと芯の強さを併せ持ち、微かな狂気も秘めているのん。性別を超える主人公を違和感なく受け入れられたのは彼女が演じたからこそ。”好き”のパワーが生む光の面だけでなく苦みや影の部分も描いているのがいい。映画がもたらすミラクル!良作。
⑥ヘルドッグス
セリフの何割かは聞き取れない、正直役者もメインキャスト以外顔の区別がつかない、、といった状況にも関わらず格闘シーンの芸術的美しさに観終わった後の満足感半端なし。素晴らしかった。あれだけのアクションを自ら演じながら監修も担当する岡田准一の底知れぬ才能に舌を巻く。
⑦キングダム2
圧巻の戦場アクションで前作超えの面白さ!何よりちゃんと中華映画になっていることに感嘆。メインを演じる若手を支えるベテランがそれぞれの持ち味を十分に生かしていて安心感がある。特に渋川清彦の正しき使い方に痺れてしまった。「鎌倉殿の13人」で刺客トウを演じた山本千尋が存在感を発揮。
➇スープとイデオロギー
家族と北朝鮮の関係を描いてきたヤン・ヨンヒ監督が自身の母を追ったドキュメンタリー映画。「済州4.3事件」のことはほとんど知らなかったので再現アニメーションで描かれる壮絶さに言葉を失う。認知症で辛く悲しい記憶が徐々に消えていく母親と寄り添う監督の姿に涙しかなかった。
⑨ハケンアニメ!
アニメ制作現場を舞台に、ゼロからイチを生み出すプロたちが矜持をかけてモノづくりに挑む。妥協なき姿勢から互いを認め合い受容していく展開に胸が熱くなる。好きという気持ちの大切さ、エンタメの素晴らしさ。仕事頑張ろうと思えた。
⑩川っぺりムコリッタ
仏教用語で48分を指すムコリッタ。ゆっくりお風呂に入ったり、誰かと一緒に炊き立てのご飯を食べたり、語り合ったり、懐かしいあの人を思い出すのにちょうどよい時間。そんな時が一日の中で持てればなんとか死ぬまで生きられるかもしれないと思った。富山の景色が美しい。

【外国語映画】
①ハッチング 孵化
怪物のヨダレが糸引く映画は傑作と相場が決まっている。母娘の癒着関係がもたらす悲劇は気持ち悪さも程よく面白かった。私としては怪物より小さなおっさんみたいな弟の方が不気味だったが。血縁関係のない一番怪しそうな男が一番まっとうだったというのも意外で良かった。
②声もなく
裏稼業で死体処理を請け負う唖者の男が女児誘拐事件に巻き込まれる。彼のいる決して甘くない世界を時にユーモラスに描きながら、先の読めない不穏さに終始ドキドキ。切なくやるせないラストだったが彼女の強さにホッとした思いも。主人公を演じたユ・アインが素晴らしかった。
③カモン カモン
言葉は使い方によって人を傷つけ取り返しのつかない亀裂を生じさせる。しかし言葉でしか自分の気持ちを伝えられないのも事実。それは大人も子供も関係ない。だからこそ相手の言葉に真摯に耳を傾ける、ジャッジしない、ただ心を寄せる、、難しいなぁ。モノクロで映るアメリカの景色が美しい。良作。
④コーダ あいのうた
両親、兄がろう者、自分だけが聴者の17歳の少女。高校に通いつつ家業を手伝い、聞こえる世界との橋渡し役として手話通訳も担ういわゆるヤングケアラーだが決して可哀そうな子として描かず美化もせず、人生をたくましく切り開く生き方に焦点を合わせていることに好感を持った。
⑤ナイトメア・アリー
因果応報を映像化した破滅への道のり。嘘と虚栄にまみれたブラッドリー・クーパーが地獄に引きずり込まれる姿を見るのはいたたまれない気持ちになる反面快感もあり。ケイト・ブランシェット他、脇を固める役者も最高。ギレルモ・デル・トロ監督の素晴らしきノワール。大満足。
⑥アネット
冒頭の長回しワンカットで心を鷲掴みにされ以降は唖然茫然。日本の怪談噺にも通じる最低男がたどる地獄道をミュージカル仕立てで描く怪作で、想像以上に凄かった。賛否あるだろうな、私は大好きだけど。生身のアネットを演じた少女の一瞬の表情からあふれる色気と狂気、歌声に鳥肌。
⑦秘密の森の、その向こう
祖母を亡くした少女が同い年の母と出会う時空を超えた物語。楽しいクレープ作り、森の小屋でのひととき。二人だけの時間を重ねるうちに互いが抱える孤独が少しずつ癒される。今は亡き母の小さくなった体をタオルで拭きながら彼女の幼き頃の姿を想像した時のことが蘇った。良作。
➇FLEE フリー
アフガニスタン難民の男性が経験した逃亡の過去を難民保護のためにアニメーションで描いたドキュメンタリーで、実写よりも観る者の想像力を掻き立て壮絶さが生々しく身に迫る。たった今もこのような世界に生きている人たちがいる、、、決して他人ごとではない。
⑨LAMB/ラム
冷え冷えとした大地、不穏さが漂う灰色の白夜世界に突然現れるその異質なものを通じ、神聖視されがちな母性と父性は排他的エゴイズムの極致であることを炙り出す。想像力を掻き立てられる演出と描写。これから羊を見る度にこの映画を思い出すはず。
⑩女神の継承
信仰に対する揺らぎ、カルマ思想、高湿度、、それらがうねりながら一つになり、恐怖の権化となってじっとりと観る者の神経にまとわりつく。怒涛の後半戦、もうどう反応していいかわからず、マスクの下でずっと笑っていたと思う。ベスト10に入れないわけにはいかなかった大傑作

以上ベスト10のほかに
私にはどうしても順位がつけられなかった作品として
『RRR』『マスター 先生が来る!』『スーパー30 アーナンド先生の教室』『響け! 情熱のムリダンガム』『ボクサーの愛』のインド映画5本を挙げておきます。
インド映画が地方でもシネコンでかかる時代がやっと来ました! 感無量です。