日本映画53本、外国映画ではインド映画8本と韓国映画6本は例年よりも多めで、全体的に豊作だった印象です。
ネット配信の会社が作品を制作するケースが増えてきて、ネット限定で配信される作品が増えてきました。『ROMA/ローマ』や『アイリッシュマン』のように限定的であっても劇場公開されれば良いのですが、これらの作品を対象にするのか悩ましくなります。
以下、明確に順位はつけずに気に入った作品を列挙します。
(C)2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
【外国映画】
『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』重たい展開も実話ならではの迫力。“存在するものを消す”CGの使い方は、時代劇では定番だろうけども、宮殿の制作過程を追うために使うのにも納得。人の生きた証とは何だろうと考えてしまう。
『ウトヤ島、7月22日』3.11の直後ということで日本ではよく知られていない事件であるが、今の世界情勢に繋がる恐ろしさを秘めた事件。本作が被害者側の視点から描いているのに比べて、犯人側から同じ事件を扱った配信限定作品(『7月22日』ポール・グリーングラス監督)との見比べも面白かった作品。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』映画のつくり方を変えて、映画の楽しみ方を変えて、映画というビジネスをも変えてしまったシリーズの区切りとしての作品を作るのは大変なプレッシャーであったと思うので、素直に拍手を送りたい。
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』おかしい、そんなはずはないという直感に基づきはするが、徹底して事実の裏取りをする。これぞジャーナリズム。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』単発の映画ではない大河シリーズを成り立たせてしまった点は功罪両面あると思いつつも、次が楽しみになる作品。今作は大団円としてのカタルシスが得られるので評価できる。
『ヒンディー・ミディアム』他国の文化に触れることができるのも映画の醍醐味。「きっと、うまくいく」でも描かれていたインドの教育問題が、よくできたコメディ映画になって楽しめた。
『プライベート・ウォー』21世紀の「戦場のはらわた」と言っても良い作品。政府の広報を垂れ流すだけのメディア批判も強く、ジャーナリズムの本質も問いかけている作品。
『ROMA/ローマ』映像作品がネット配信されることによって、映画とテレビの役割も変化していくなかで、映画館で映画を観るということについて改めて意味を感じさせてくれる作品。
『ちいさな独裁者』実話をベースにしながら、残虐性・権威主義・絶対服従について戦場という特殊な環境で描いていくが、企業で行われる組織ぐるみの不正だって根は同じということを考えさせられる作品。
『運び屋』人間の承認欲求について考えさせられた作品。
【日本映画】
『新聞記者』あくまでもフィクションという名の真実のドラマ。これが映画だから作れるという事実。主人公を日系韓国人ハーフのアメリカ育ちに設定することで、同調圧力に屈しやすい日本人の特性を浮かび上がらせている点が素晴らしい。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』2時間50分がまったく長くないし、リンのエピソードが足されることで、手が入っていないはずの従来のシーンから受ける印象が変化して、より一層“世界の片隅”感が増すという驚きの体験。
『翔んで埼玉』絶対にうまくいくわけがないと思われる漫画原作の映画化を、まさかのキャスティングで成功させてしまった。「テルマエロマエ」と並んで、日本の漫画文化と映画文化の融合を感じさせる作品。ただし、これらの作品に埋もれて、数多の漫画原作のクズ作品があることを忘れてはいけない・・
『蜜蜂と遠雷』原作者恩田陸がパンフに寄せた言葉「能動的に音楽に向き合うことが少なくなった」時代に、必死に音楽に向き合っている若者たちを描く内容に心を打たれる作品。役者たちの演技が光った。
『天気の子』災厄が起こって、なんやかんやで元通りになってめでたしめでたし・・でいいのか?という新海監督のメッセージはわからんでもないが、“大丈夫”のひとことで片付けて良い話でもないとは思う。しかし、新海ブランドの映像は相変わらず素晴らしいし、作品としてのカタルシスは他の作品では得難いもの。
『空の青さを知る人よ』縛られたのは土地なのか人なのか。様々な理由で夢追いを諦めた組に対して、夢追いを諦めなかったはずなのに負い目を持つ慎之介が、高校生ならではの怖れ知らずの真っ直ぐさを30過ぎて突きつけられても対応できないもどかしさが痛すぎる作品。
『主戦場』何度も繰り返されている論点を可能な限り公平に扱おうとしている姿勢が感じられる。どうしても一方の言い分が雑すぎて、彼らの主張を信じる勢力が絶えないことが信じられない。知れば自ずと見える筈。
『旅のおわり世界のはじまり』淡々と仕事するカメラマン、訳知り顔で投げやりなディレクター、ADらしいAD、感情を押し殺して仕事する通訳といった面々のキャスティングが良い。前田敦子は別に好きではないが、この作品は彼女自身が今演じることで意味のある作品になった。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』OVA二本分をまとめて劇場版にしたという体裁の公開方法だが、二本が連続した話になっており、二部構成の話として楽しめる。吉田玲子の脚本が効いている。
【2019年のおバカ作品たち】※おススメする人を選ぶが、抜群に楽しい作品たち
『ハッパGOGO 大統領極秘指令』カナダより先に大麻合法化を行ったウルグアイで実際に起きた社会情勢を背景に、裏で起きていた“かもしれない”ファクトとフェイクがミックスされたモキュメンタリー形式のおバカ映画。前大統領まで出演させてしまうはじけっぷり。ただし日本の裏側に位置するウルグアイの事情に疎いから、どこからが冗談なのかわかりにくい。そこがまた笑える。
『ハッピー・デス・デイ』『ハッピー・デス・デイ 2U』誕生日に殺されてしまい、なぜか同じ一日を何度も繰り返す。ループしていくほどに、事態を避けようとして行動がはじけていく主人公が楽しすぎる。ほろっとさせるシーンがあるのもおバカ要素としては大切。続編では単なる超常現象ではなくて、謎解き展開に持っていったのがGoodでおバカの上塗り!1作目の父との和解さえもひっくり返してしまうおバカ展開に脱帽。
『テルアビブ・オン・ファイア』紛争地帯であっても日常はある。そういう視点の作品もあると思うが、それがテレビドラマという非現実。民族闘争の複雑さをそのまま作品に投影させながらも番組制作の裏側のドタバタに絡めてさらっと描くところが楽しい。ラストの解決策が何ともおバカでありながら反戦を主張する作品。
『感染家族』「ウォームハート」のような設定を使いながら、東洋人らしいエゴイズムが作品のスパイス。ゾンビウィルスの発生原因に対する描写が不足していたのは残念。
『バイス』「記者たち」とセットで観るとさらに楽しめる作品。クリスチャン・ベールのなりきりっぷりに脱帽。
『パラサイト 半地下の家族』ここ数年のカンヌ映画祭は弱者視点であったり、格差社会にスポットを当てた作品に注目している。本作もその流れに乗って受賞したのであろう。前半のコメディ展開から後半のネタバレ厳禁部分への導入部の、ゾクゾクする感覚が忘れられない。クライマックスである父親がとる行動の動機については、納得はしてもちょっと弱い気がする。
『愛と銃弾』ナポリ歌謡をフィーチャーした音楽が妙にハマるクライムコメディミュージカル。
『マッキー』「バーフバリ」がヒットしたS.S.ラージャマウリ監督の2012年作品。椅子からずり落ちそうになって、笑いにひきつりながら観てしまう。
以上