2018年 マイ・シネマ・ベスト10! 飯田 眞由美

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春になりました。今年もマイ・シネマ・ベスト10をご報告できることに幸せを感じます。
さて、さっそく第10位から。『スリー・ビルボード』喪失感を乗り越える形は色々。越えられず潰れてしまう者も多い。悲しみと怒り、負のエネルギーが生きる力になると、フランシス・マクドーマンドの演技が示した作品。
 第9位には『万引き家族』。映画のラストシーン。実の親から虐待を受けていた女の子は、結局、元に戻されてしまう。やはり虐待が再燃し始めたと分かる場面。悲しみと諦めを秘めた瞳に観客は無力感を味わう。と、映画を観た後日、円満な家庭を描くテレビCMに引き付けられた。無邪気な笑顔の女の子、これぞ幸せといった画。子役は『万引き家族』のあの女の子だった。安藤サクラより樹木希林よりも舌をまく演技力は、この子役佐々木みゆちゃんにあると実感した瞬間だった、という後日談も。全ての演技者の上手さと、それを引き出した監督の技量を感服。
 第8位は『1987、ある闘いの真実』。正義を求める映画は、どこの国いつの時代でも感動を生む。韓国映画のファンでなくても、知っている顔の男優さんがいっぱい。こういう映画、日本ではしばらく作られていないなと思う。
 第7位には『シェイプ・オブ・ウォーター』を。自分自身がリスペクトされているという実感は、生きる力の源になる。たとえそれが人間ではない生物からのものだとしても。
 第6位『search/サーチ』第5位『グッド・ネイバー』第4位『カメラを止めるな』は、どれも伏線探しにもう一度観たくなる作品。『カメ止め』は低予算で作られたのにリピーター続出で社会現象になったのは周知の話。『search/サーチ』は最初から最後までパソコンの画面の中で物語が進む、密室よりさらに狭い空間が舞台。映画のスクリーンにパソコンのスクリーン。DVDが出たらパソコンで観たら尚いいかもと思った。『グッド・ネイバー』(TV放映)は、なかなかのどんでん返し物。この3本、脚本が上手いと金を掛けなくても面白い物は面白いと証明している。
 第3位『私はマリア・カラス』原題のMaria by Callasが言うように、全てマリア・カラスが自身のことを語ったドキュメンタリー映画。いつもアンコールで歌うという曲は、私の大好きな「私のおとうさん」。それもあって第3位に。
 第2位は『ボヘミアン・ラプソディー』。高校生の頃にタイムスリップ。人種、移民、同性愛やエイズ。映画が描く差別は表面的と言う人もいるけれど、こんなに引き込まれる音楽映画に会えて満足。それにしてもブライアン・メイは本人の出演かと思うほどそっくりでしたよね。
 そして第1位は『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。当然だが、映画は映像が伝達手段だ。そこに映る者や物、動きに意味がある。それは存在しないことに気づく作業でもある。『フロリダ・プロジェクト』が是枝作品の『誰も知らない』に通じる印象は、父という責任を負う人間の不在だ。無秩序な母だけに糾弾の弓が放たれる。子が生まれる機序に関係しても育てるに至らない男の不実は映像にないから見えない。『フロリダ・・』には、ウィレム・デフォー演じる善良な宿の管理人がいて、それで男に免罪符を与えている。いかにもアメリカ的良心とミソジニーに溢れているではないか。そんな沢山の思いを引き出してくれた、手応え十分の作品。ふー、10本に絞るって難しい!

『セメントの記憶』ジアード・クルスーム監督来日イベント(3/21)

3月23日(土)からの『セメントの記憶』公開を前に、ジアード・クルスーム監督が初来日され、前作『The Immortal Sergeant/不死身の軍曹』の上映会&トークイベントが開催されます。

【開催日】
3月21日(木・祝)
※PEATIXにて優先券を予約した方から先に入場。
予約方法などは、https://www.facebook.com/events/2245479125528587/ で!


【会場】

筑波大学東京キャンパス 120講義室  
住所:〒112-0012 東京都文京区大塚3-29-1

【プログラム・スケジュール】

開場:15:00〜
映画上映:15:30〜(72分)*上映後トイレ休憩
トーク:16:45〜

【トークゲスト】
○ジアード・クルスーム(『セメントの記憶』監督)
○松原康介(筑波大学)
○青山弘之(東京外国語大学 総合国際学研究院国際社会部門)
※その他調整中
※モデレーター・有田浩介(サニーフィルム/『セメントの記憶』配給)

【『The Immortal Sergeant』ジアード・クルスーム監督作品】
2013年/シリア・レバノン/72分/ドキュメンタリー/英語字幕

“2011年、私の徴兵は終わったはずだった———しかし祖国で革命運動が始まり私は軍曹へと昇格してしまった。私の仕事は15年間映画を上映していないバースィル・アサド劇場の運営だった。軍での仕事が終わると、私は小さなカメラを持ち友人のモハメド・マラスの映画の撮影現場に足を運び、彼のスタッフの多くの反体制派にカメラを向けた。彼らの家は破壊され、多くの仲間は殺され、国を追われた者も多くいる。撮影が終わると私は家に帰り、祖国で起きている破壊と暴力についてのニュースを見つめる。無力だ。日は再び昇り、私は軍服を着て新しい1日を始めるために出かける”。

シリア人映画監督であるモハメド・マラスの協力のもとジアード・クルスームが完成させた初の長編ドキュメンタリー。映画は、当時ジアード・クルスームが徴兵制によって仕えていたシリア政府軍管理施設の内部と、勤務後に参加していた反体制派の活動家たちが働いていた映画撮影現場の様子を記録しています。二重生活を送り、統合失調病に苦しんでいたジアード・クルスームは、映画で内省的に語り、ラストあるメッセージを残す。

【登壇者プロフィール】
ジアード・クルスーム (Ziad Kalthoum)
1981年シリア・ホムス生まれ。現在ベルリン在住。2009年にクルド人女性グループを追った短編ドキュメンタリー『OH MY HEART』は製作するがシリア国内の上映が禁止される。2010年に政府軍に徴兵され、2011年、アラブの春がシリアに飛び火し首都ダマスクスで平和でもが行われた。デモ鎮圧のために派兵されたダマスクスで市民が兵士に殺されるのを目撃する。2012年、内戦が激化していくなか、兵士として『The Immortal Sergeant』を製作し始める。本作品は2014年ロカルノ国際映画祭でプレミア上映され、BBCが主催するアラビック映画祭2015で最優秀賞を受賞する。2013年、政府軍を抜けベイルートへ亡命し『セメントの記憶』の製作を開始する。2017年に完成した本作品は世界60カ国100以上の映画祭で上映され、ヨーロッパ映画賞、ドイツ映画賞、インディペンデントスピリット賞、アジア太平洋映画賞など世界の栄えある映画賞にセレクトされる。

松原康介(まつばら こうすけ)
1973年神奈川生まれ。筑波大学システム情報系社会工学域・国際総合学類准教授、地中海・北アフリカ研究センター兼任准教授。専門は都市計画史。近著に『地中海を旅する62章 歴史と文化の都市探訪』(明石書店、2019年)。2006-07年アレッポ大学学術交流日本センター研究員、2009-12年JICAダマスカス都市計画プロジェクト専門家。映画『セメントの記憶』パンフレットの執筆に参画。

青山弘之(あおやま ひろゆき)
東京外国語大学 総合国際学研究院国際社会部門
1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院修了。1995~97年、99~2001年までシリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。JETROアジア経済研究所研究員(1997~2008年)を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。編著書に『シリア情勢:終わらない人道危機(岩波新書)』(岩波書店、2017年)、『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店、2014年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

有田浩介(ありた こうすけ)
映画配給会社サニーフィルムの代表。世界のドキュメンタリーを買い付けて国内配給をしています。


『セメントの記憶』については、こちらで!