(C)2024「ベイビーワルキューレ ナイスデイズ」製作委員会
【邦画】
①ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
シリーズものは、手の内が見えて鼻白むこともあるのだが、まったくそんなことはなく、いったいどこまで進化するのだろうと感服するのみ。今回は池松壮亮の投入が成功の一つで二人ともこんなに動けるのかと驚いた。前田敦子と高石あかりの世代間ギャップについての丁々発止のやりとりも楽しく前田の受け演技の上手さに唸る。
②Chime
怖いと聞いていたがまさかこういう話だったとは。人はなぜ狂ってしまうのか。最近起きた事件を思い出し、絵空事ではなくこの世界と地続きなのだと思わせられ本当に恐ろしかった。それにしても吉岡睦雄、神経に触る声といい何を考えているのかわからない能面のような顔といいよくこんな凄い役者がいたものだ。
③ナミビアの砂漠
ホームビデオのような手ブレと正方形のスタンダードな画角に21歳女性の日常を覗き見しているような感覚に陥る。鬱屈した日常に飽き飽きしながら本能のままに動く究極の自己チュー女、そんな自分を冷静に俯瞰する主人公を河合由実が凄まじいエネルギーで演じている。末恐ろしい。
④夜明けのすべて
“人は見かけによらない”という言葉どおり、平穏に過ごしているように見えても人は何かしら事情を抱えて生きていて、特に表には見えにくい病気だとその苦しみはいかほどかと思う。それでも暗闇の中の星のように寄り添い見守ってくれる人がいる。きっと夜明けはくるという多幸感に満たされた。
⑤カラオケ行こ!
原作は未読。中学生が心を開き、ヤクザとの絆を深めていく過程が可愛くて優しくて、、、トンデモ設定に笑っていつのまにか泣かされていた。喪失と再生の物語でもある。主演の少年を盛り立てながら自身の魅力を炸裂させる綾野剛はやはり凄い役者。「紅」良い曲だなぁ。
⑥碁盤斬り
夜の闇にゆらめく蝋燭の灯り、浮かび上がる陰影ある人物の表情、月夜に照らされる街並みなど暗さにこだわった撮影が素晴らしく江戸の町にさまよいこんだ感覚になる。碁石のように白黒で決着をつけられないのが人間の業。強さと弱さを体現した草彅剛の上手さに舌を巻いた。
⑦侍タイムスリッパー
期待を超える面白さ!実直で心の葛藤は決して表に出さず、一本気でありながら周囲への気配りは忘れない新左衛門がとにかく魅力的。演じる山口馬木也の面構えは必見!時代劇役者はこうあるべし!ラスト、侍の誇りを賭けた文字通り真剣勝負に鳥肌が立つ。
➇Cloud クラウド
転売ヤーの因果応報、自業自得、身から出た錆物語。前半、主人公の周囲が増悪の空気でどす黒く膨らんでいく気配に戦慄。バスのシーンでは思わず声が出そうになる。得体のしれない魅力を醸し出す菅田将暉と窪田正孝の上手さは言わずもがな、芸達者な奥平大兼に目が離せなかった。
⑨ぼくのお日さま
『ナミビアの砂漠』と同じく正方形のスタンダードな画角で画質もフィルムっぽいザラっとした感じ。光がより柔らかくこちらに届いた。美しさ優しさの中に残酷の種が内在する日常。心が折れそうになってもお日さまが雪を溶かし春が訪れるように必ず一歩を踏み出せる、そんな希望が見えるラストに涙。
⑩サユリ
想像の斜め上を遥かに飛んでいく映画を観てしまった。恐怖のどん底へ突き落されてからの、まさかの明日の活力につながる展開になろうとは!お化けにつけ込まれない秘訣はよく笑いよく食べ体を鍛えて命を濃くすること。陰陽バランス良く!座右の銘にしたい。
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【外国語映画】
①ファースト・カウ
この映画を鑑賞した昨年の1月で今年の№1と確信。信じ合うことが唯一生きる術だった二人。そんな彼らの結末は冒頭で知ることになるが、いっそう愛おしく、幸せを願わずにはいられなかった。心の柔らかな部分を掴まれたような、、今もふと二人のことを考えてしまう。
②ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
クリスマス休暇に帰る場所がない、心に深い傷を持つ3人。年齢や立場、境遇の違う彼らが穏やかに少しずつ距離を詰めていく様子がしみじみと切なくて優しい。戦死した息子に対する喪失感を抱えながらも自身の人生を進んでいくダヴァイン・ジョイ・ランドルフ演じる料理長が特に心に残った。
③本日公休
長年理容店を営む女性が、恩のある常連客のために店を休んでその人が住む町に向かう。自分はもちろん他者の生き方も否定せず、どんな状況でも思いのままに生きるヒロインの姿に勇気づけられる。私自身、人生の後半を迎え、指針ともなる作品に出会えた。
④オーメン:ザ・ファースト
半世紀を経て、ダミアン出生の秘密が明かされる!ということで期待と不安半々だったのだが想像超えの面白さ。70年初頭、社会的に過渡期を迎えていた時代が彼を生み出した土壌となっていて、"今"とも地続きであるという恐怖が実感として迫ってくる。ラストが最高!
⑤花嫁はどこへ?
ここに登場するどの女性たちの生き方も決して否定していないところが良かった。偶然の出会いがもたらした新しい考え方や価値観、自信が彼女たちの未来を明るく照らしてくれるに違いない。パンフにレシピが載ってたレンコンのサブジ、ぜひ作ってみたい。
⑥ソウルの春
当時日本の報道でゼントカンという名前だけは記憶しているが実際に何が起こっていたかは知る由もなかった。民主化に向けられる軍事反乱に心から戦慄するとともに国の暗部を真っ正面から抉ることができる韓国映画に改めて脱帽。ファン・ジョンミンの風貌と演技が凄すぎて腹立たしいほど。
⑦枯れ葉
不寛容な世界でささやかに生きる人たちが見せる優しさと希望。ヒロインが決してプライドを失わず凛としている様子に救われる。衣装やインテリアなどの北欧的色遣いがとてもオシャレ。悲しげでどこか悟りを開いたような表情のワンコが可愛い。カウリスマキ作品はやはり好きだなぁ。
➇ただ空高く舞え
もともと航空機自体、乗客の格差がはっきりと見える乗り物。その業界にカーストや貧富の差をものともせず、庶民にも空の旅を!と不屈の精神で試練の波を乗り越えていく男達の話なのだから熱くならないわけがない。
夫婦の描き方も新鮮で良かった。妻役のアパルナー・バーラムラリは気概があって芯が通っている役柄がピッタリ。彼女の作品はこれからも追っていきたい。
⑨無名
1940年代の上海を舞台にしたスパイ・ノワール。序盤は行きつ戻りつする時系列に少々混乱するが、気が付くと二転三転する予測不能な展開にすっかり魅了されていた。色香と哀しみをまとい戦時中の闇に佇むトニー・レオンのなんと絵になることか。映像の構図、美術も素晴らしかった。
⑩密輸 1970
1970年代の漁村を舞台に犯罪に巻き込まれた海女さんたちの生きるためのバトル。機転が利き、肝が据わった女たちが汚職税関やヤクザに命がけで立ち向かう姿はカッコよくバックに流れる歌謡曲も効果的。海女さん達が水中から顔を出した時の口笛は磯笛といって肺に残っている空気を出し切るためのテクニックだそう。音により自分の居場所を仲間に知らせることもできるという、なるほど!
以上ベスト10のほかに
一昨年、昨年と同様私にはどうしても順位がつけられなかった作品として『2つの愛が進行中』『サルカール』『ザ・フェイス』『ストリートダンサー』『PS1 黄金の河』『PS2 大いなる船出』『サラール』『ジガルタンダ』『ジガルタンダ・ダブルX』『カッティ』『リシの旅路』、そして『JAWAN/ジャワーン』のインド映画12本を挙げておきます。